チェーホフの素顔(2) ~家族の証言より~

■少年時代のチェーホフ(2)
タガンローグの生家 [ Chekhov_Birthhouse]
タガンローグの生家 By Бобровская Ольга - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.
wikimedia.org/w/index.php?curid=43376541


 後年、チェーホフは「子どもの頃、自分には少年時代が無かった」と語っています。
 妹のマリヤは「…のちに、もう大人になってから、あの生まれつきデリケートで温和なアントンが、子ども達に対する教育のことで、よく父を非難しました。…」と思い返しています。

(PD) 父パーヴェル(トリム) 316px-Chekhov_PE   父親パーヴェル


しかし一方で、妹マリヤや、末弟ミハイルの回想記を読むと、チェーホフ家の別の面が見えてきます。どんな環境の中でも兄弟たちがいつも一致団結して精一杯生きている姿、また小さい頃の腕白きわまりないアントン少年の姿が伝わってきます。
ミハイルとマリヤ末弟ミハイルと妹マリヤ



ミハイル
「わが家の一日は、労働に始まり労働に終わった。家族全員が早起きだった。少年たちは学校へ行き、帰ると宿題をやって、家の手伝いが全部終わってから自分の好きな事を始めた。

「でも僕たちは、父親の代わりの店番を務めたりしながらも、ちゃんと年頃の男の子らしい楽しみ、都会の少年にとっては夢にも出てこないようなことをしていた……。

「海に行って一日中ハゼを釣ったり、ラプター[ クリケットに似たゲーム ]をして遊んだり、家庭演劇をやったりした。家の生活規則はたいへん厳しかったし、当時ではあたりまえの体罰もあったけど、僕たち男の子は、勉強や家事の手伝いの合間をぬってけっこう自由を満喫していた。

 何よりもよく覚えているのは、誰にも許しを乞わず、勝手に外へ遊びに飛び出していったことだ、大事なのは食事にはちゃんと帰ること、家族の生活のリズムを崩さないことだった。勉強や自分の責任はきちんと果たした。…」

マリヤ
「子どもの私たちは用事もたくさんしなければなりませんでしたが、それでもお互いに仲よく、陽気に暮らしていました。遊んだり、ふざけたり、いたずらしたり、いつも笑い声が家の中に絶えませんでした。

 いたずらっぽい即興芝居や、罪のないふざけっこを思いつくのは、いつもアントンがその中心人物でした。彼が決まって子供仲間の首謀者でした。」



アントンの悪戯の標的となった、兄ニコライの帽子
荷馬車①rustic-2087334_640 

 弟ミハイルは、子どもの頃の家族旅行のエピソードで、アントンの腕白ぶりを紹介しています。

 しかしその腕白ぶりは、年相応の、ごく当たり前な子どもの姿ですが、後年の「静かな文学者」のイメージからは想像もつきません。

 以下のクリニチカ村への家族旅行は、兄ニコライが15歳。アントンは13歳の時のエピソードです。
アントンとニコライ左がアントン、右が兄ニコライ

ミハイル
「…子ども達のために両親が計画した遠出の旅のことを覚えている。タガンローグから70露里(約75キロ弱)離れたクリニチカ村への旅だった。…

「当時15歳だった次兄のニコライはどこからか折り畳み式のシルクハットを見つけて来て、これをかぶって行こうとしていた。これを茶目なアントンが散々物笑いにした。
 
「御者を数に入れないと、総勢7人が荷馬車に乗って出発した。今思うと、7人が乗り込んで70露里を往復するなんてよくできたものだ。想像することすら難しい。」



 ちなみに、この「70露里(約75キロ弱)」というと、日本でいえば、だいたい「新宿~小田原」間くらいでしょうか(正確には80キロを少し超えるようですが)。

 おそらく早朝に家を出て、夕方に着いたようなので、移動に6~7時間ほど、だいたい時速10~13キロでしょう。これってジョギングより少し早いくらいの速度にあたるようです。さすがに荷馬車に乗ったことはないので分かりませんが、確かにこの位の速さなんでしょうね。

ロシア農村 ①(小)russia-91881_1280


「ニコライは道中ずっとシルクハットをかぶっていた。そして片目をすがめてアントンの冗談を聞いていた。彼は幼児の頃からわずかではあるが斜視だった。顔を肩の方にちょっとかしげ、片目を細くして歩く癖があった。兄弟にいたずらを仕掛けたり、あだ名をつけたりするのが好きなアントンは、ニコライを始終からかっていた。

『おい、ガチャ目くん、一服したいな!タバコ持ってるかい?なあ、メッカチくん』
  

「…クリニチカ村へ辿り着いたのは、夕陽が沈み始める頃だった…今まで延々とニコライをからかって落ち着かせなかったアントンは、クリニチカへ着くとついに冗談だけでは我慢しきれなくなって、ニコライの頭からシルクハットを叩き落とした。

 ハットは馬車の車輪の下へ飛んでいき、押し潰されて中からバネが飛び出した。それでも大人しいニコライは、何も言わずに自分の帽子を拾い、横からバネが飛び出ている帽子をかぶりなおして旅を続けた…」



 さて、滞在先の農家に着くと、落ち着く暇もなく、アレクサンドルとアントンは、すぐどこからか小さな引き網を見つけて来て、川へ魚捕りに出かけ、小さなカマス5匹とカニを50匹くらい取って帰って来ます。

 そして一家は、クリニチカ村で丸二日過ごし、その後、少し離れた祖父エゴールの住むクニャジャヤまで足を伸ばします。

小川、田舎(小) water-3341531_640

「…ニコライの帽子は、このクニャジャヤで不幸な最後をとげることになる。彼は水浴びする時も帽子を手放すことができなかった。帽子をかぶった裸のニコライが川の中でもがいていると、アントンが後ろからそっと近づいて行って帽子を叩いた。帽子はニコライの頭から落ちて、みんなが驚いたことに、水を吸い込み沈んでいった……。」


 

■『能楽堂公演 チェーホフ「桜の園」より』公演の
詳細と予約は、コチラから


20 能楽堂「桜の園」チラシ_(表) 




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