-王女メデイアの故郷を訪ねる-

『メデイア』特集 2

(この記事は、「東京ノーヴイNewsPaper 4月号」掲載の記事をもとに作成しています。)




魔術を駆使する、王女メデイア
エウリピデスの『メデイア』を読むと、メデイアが様々な魔術を駆使することが描かれています(しかもメデイアは、けっこうエグイ魔術を使います)

ところでメデイアって、王女様だったのになぜ魔術も使えるのでしょう? 今回は、そんな疑問に答えるべく、メデイアの故郷を訪ねてみたいと思います。



古代ギリシャ世界におけるコルキス
コルキス王国は、今のグルジア、正確には、黒海に面するグルジア西部にあたります。 


コルキスの地図③

(PD)コルキス(現グルジア)近辺の黒海Sochi_edited
コルキス(現グルジア)近辺の黒海


そうです、
私たちのレパートリー作品である、ブレヒトの『コーカサスの白墨の輪』の舞台ともなった国です。
領主一家(加工)1「コーカサスの白墨の輪」より


神秘と黄金の国、グルジア
グルジアは、先史時代にあっては金属精錬の発祥地のひとつとされています。そして古代ギリシャ文明に先駆けて開花、繁栄しました。



cc-by2 (mischvalente - IMGP1630 Uploaded by geagea)193px-Georgia_(15)
ジョージア国立美術館「黄金のライオン」
By mischvalente - IMGP1630Uploaded by geagea, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10056908

cc-by3(315px-Ananauri_Gold_Necklace_02)アナナウリ墳丘墓の黄金ネックレス

By Jonathan Cardy - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=33767641




またコルキス人の富裕さについては、早くからギリシャ人たちの知るところであり、ギリシャ神話におけるコルキス王女メデイアと「黄金の羊の毛皮」の物語に端的に示されています。

「メデイア」にも出てくる、この「黄金の羊の毛皮(金羊毛)」とは、ギリシア神話に出てくる秘宝のひとつで、翼を持つ金色の羊の毛皮のこと。コルキスの王が所有し、眠らないドラゴンによって守られていたそうです。

つまり、古代ギリシャ人にとって、コルキスは最果ての地であり、豊かさと同時に妖しく、神秘に満ちた国と映ったようです。
もっとも、エウリピデスの作中では、イアソンの口によって「野蛮な国」「未開の国」など、散々な悪口を叩かれますが…。


40% (PD) 金羊毛とイアソン800px-Jason_Pelias_Louvre_K127金羊毛とイアソン




ヘカテ女神に仕える巫女、メデイア

さて、次は、なぜメデイアが魔術を自在に使えたかについて見てみましょう。

実はメデイアは、血筋の上では、太陽神ヘリオスの後裔にあたりました。
そして彼女は、コルキス王国の王女であると同時に、ヘカテ女神に仕える巫女でもありました。



この「ヘカテ女神」とは、いったいどんな神様だったのでしょう?
(PD) ヘカテー(ウィリアム・ブレイク画、1795年)William_Blake_006ヘカテー(ウィリアム・ブレイク画、1795年)


ヘカテ女神は、もともとはアナトリア半島やトラキア地方において信仰されていた女神だったと考えられています。
非常に古い神で、天空、地上、冥界にかかわる神であったようです。やがて、冥界の神としての性格が強くなっていき、そこから、月や魔術をつかさどると考えられていったようです。

こうして、ヘカテ女神は、別名を「死の女神」、「女魔術師の保護者」、「霊の先導者」、「死者達の王女」、「無敵の女王」などと呼ばれていました。

メデイアは、この魔術を司る女神ヘカテに巫女として仕えていただけでなく、のちには自身も神の系図に名をつらねることになります。こうして見てくると、彼女が魔術を使えないわけはありませんね。

ただし、実際に、当時のコルキス国でヘカテ女神が信仰されていたかどうかは分かりません。
どちらかといえば、エウリピデスが、ドラマ性を高めるために設定したお話のように思いますが…。
(どなたか詳しい方がいたら、教えてください)


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『メデイア』を生んだ古代の伝説「アルゴー船の遠征」!

『メデイア』特集1
(この記事は、「東京ノーヴイNewsPaper 4月号」掲載の記事をもとに、改めて編集・作成しています。)
50% (PD) わが子を殺そうとするメディア ②(ウジェーヌ・ドラクロワ画 、1862、リール市立美術館蔵)800px-Eugène_Ferdinand_Victor_Delacroix_031 わが子を殺そうとするメディア (ウジェーヌ・ドラクロワ画 、1862)



エウリピデス『メデイア』の作品背景には、古代ギリシャ世界に広く伝わっていた『アルゴー船の遠征』という物語伝説が存在しています。
この物語なくて、『メデイア』は語れません!

この『アルゴー船の遠征』こそ、後にメデイアの夫となるイアソンが主人公として活躍する冒険の物語であり、二人の出会いを描いた作品なのです。

今回の記事では、この『アルゴー船の遠征』譚について紹介させていただきます。どうぞお楽しみください。



1)物語の発端

イアソンは、もともとはギリシャ東北部テッサリア地方にある国、イオルコスの王子でした。

60% テッサリアの地図②


けれどもイアソンがまだ幼かったとき、王位は、叔父の手によって奪われてしまうのです。

年月が流れ、立派な青年に成長したイアソンは、王位を返すよう叔父に迫ります。

焦った叔父王は、ギリシャから遠く離れた最果ての地、コルキス王国にあるといわれる伝説の「黄金の羊の毛皮」を手に入れて帰ることが出来たなら王位を返そうと約束します。叔父には、それが不可能だという目論見があったのです。

イアソンは女神アテーナーから助言を得て、船大工のアルゴスに50の櫂を持つ巨船を建造させました。そして、イアソンが船員を募るとギリシャ中から50人の勇者が集まり、彼らはともに、このアルゴー船に乗り込んで、最果ての地、コルキス王国に向かいます。


220px-Building_Argo_BM_TerrD603.jpg

アルゴー船建造を手伝うアテーナー。
From wikimedia Commons/ File:Building Argo BM TerrD603.jpg 21 August 2007 (UTC) License=CC BY-SA 2.5



2)豪華キャストの神話
ちなみに、このアルゴー船に乗り込む50人の英雄たちは、そうそうたる顔ぶれです。
豪華キャストというか、まるでギリシャ神話に登場する英雄たちのオールスター戦!

有名どころでは、英雄の代名詞ともいえる怪力ヘラクレスから始まって、クレタ島の迷宮に住む怪物ミノタウルスを倒すテーセウス、死んで双子座になったカストールとポリュデウケース。変わりどころでは竪琴の名手オルペウス(オルフェウス)などがいます。

ただし残念なことに、せっかく揃えたこの豪華メンバーも、全員が活躍の場を与えられる訳ではありませんでした。
英雄の代名詞ヘラクレスに至っては、旅の始まりの方で脱落してしまいます。
(あるトラブルがもとで島に降りている間に、船に置いてきぼりをくらってしまうのです)


40 (PD)ローマ・カピトリーノ美術館にあるヘーラクレースと二匹の蛇の像。800px-Herakles_snake_Musei_Capitolini_MC247 子供時代の英雄ヘラクレス
60%(PD)ミノタウロスと戦うテーセウスMinotaur 怪物ミノタウロスと戦う英雄テーセウス

3)メデイアとの出会い
メデイアは、遠国コルキス国の王女でした。
このコルキス国というのは、古代ギリシャ世界においては、その最果ての国であり、神秘の国でもありました。
コルキス国は、現在の黒海沿岸のグルジアに相当します。

コルキスの地図③



彼女は、コルキス国の宝である「黄金の羊の毛皮」を求めてやってきたイアソンに、一目ぼれをしてしまい、自国を裏切って、イアソンとともに「金羊毛」を奪って逃げ出します(メデイアは実は魔術を使える巫女でもあったため、魔術を使ってイアソンを助けます)

『アルゴー船の遠征』という冒険譚は、この「金羊毛」を手にしたイアソンがイオルコス国に無事に戻るまでを描いています。


40% (PD) 金羊毛とイアソン800px-Jason_Pelias_Louvre_K127  金羊毛を叔父に渡すイアソン


4)イオルコスに戻ってからの遍歴
さて、金羊毛を手に入れ、メデイアとともにイオルコス国に戻ってみるも叔父には王位を返すつもりもないため埒があかず、業を煮やしたメデイアは、魔術と奸計をもって叔父を殺してしまいます。この手口があまりに残酷であったため、人々から怖れられ、イオルコスにもいられなくなり、二人はコリントス王国に逃れてきます。

コリントスは、古代ギリシャ世界では、経済の中心として栄え、アテナイやテーバイ王国の台頭後も、財力でこれらに並んでいました。

〈メデイアたちは、イオルコスを逃れコリントスに渡ります〉
50% コリントスの地図②


北のギリシア本土と、南のペロポネソス半島をつなぐ位置にあり、交通の上でも、また交易面でも、絶好の要衝の地として繁栄した国家でした。

商業経済の栄えた地域ではよく見られるように、迷信よりも合理的な発想が好まれるような、自由な気風の国だったのではないでしょうか。

そしてその意味では、メデイアにとって、自身が施した魔術の結果として逃げ込む場所としては、一番ふさわしい国だったのかもしれません。

こうして、この地でメデイアはイアソンとの間に二人の子供をもうけ、平和に暮らしていました。
けれどもイアソンは、コリントスの王クレオンから自分の娘との縁談を持ちかけられると、
メデイアと自分の子供を捨てて、王の娘との縁談を受けてしまうのです。

エウリピデスの『メデイア』の物語は、ここから始まります。





次回は、王女メデイアの故郷、コルキス国について紹介させていただきます。
どうぞ、お楽しみに!





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アンティゴネー名言集「私は憎しみあうより、愛を選びます。」

「アンティゴネー」特集 2
古典の魅力と言えば、その一つは間違いなく、含蓄に富んだ「名言」の数々です。
ソポクレスは、王女アンティゴネーに「私は憎しみあうより、愛を選びます。」と語らせます。

今回は、その『アンティゴネー』の中から、ソポクレスの素晴らしい言葉を幾つか選んでみました。

60% ソポクレス(PD)(PD:ソポクレス)


・裁判官が正しくないと、ひどいことになる。

・神々の掟は、時を超えて生きている。

・一途に思いつめ、自分のみが正しい、などと言わぬもの。

・自分だけが分別を心得ていると思っている連中は、中身をあけてみると実は空っぽ。

・たとえ賢者であろうとも、人から学ぶことは決して恥ではない。

・人は頑なであってはならぬ。

・人間生まれながらに、森羅万象すべてのことに通じているならば、それに越したことはない。しかし、そうは行かぬのが世のならいならば、人がよいことを言っている時はそれを学ぶことこそ立派なこと。

・良き分別こそ、神々の授けたもうた宝物。

・人の一生というものは、褒め称えるにせよ不平をかこつにせよ、これが自分の一生だと決めることなどはできない。

・幸せでいる者を運がなぎ倒す、不幸に転んでいる者を運が起こす。

・今は何もお祈り召されますな。与えられた悲しき運命を避けるなど、人間にはできぬこと。

・よき思慮こそ、幸せの要諦なり。

・神々に向かってゆめ不敬の振舞いあるべからず。

・心奢りて大言壮語を弄べば、神罰痛し、恐ろし。

10% (PD) 「アキレウスとペンテシレイア」エクセキアス作。紀元前540年ごろ(大英博物館)Achilles_Penthesileia_BM_B209 (PD:ギリシャ神話が描かれた壺絵)



さて、3月には、この『アンティゴネー』が下北沢で上演されます。
2018年 3月22日(木) ~ 24日(土)
ギリシャ悲劇
 ソポクレス作『アンティゴネー』

今回は、3公演のみになります。
下北沢の劇場は、限定25席の空間です。ご予約はお早めにどうぞ。
公演の詳細とお申し込みはコチラ!

<公演情報・申込み>ボタン 


2月、清里のオルゴール博物館で、「アンティゴネー」を公演しました!

ギリシャ悲劇「アンティゴネー」特集 1

2月17日に、私たちは、山梨県北杜市の「萌木の村オルゴール博物館」にて、ギリシャ悲劇『アンティゴネー』を上演してきました。
これはホームシアターと呼ばれるもので、劇場ではない建物を利用しての特別な公演です。

    □上演日時:2018年2月17日(土)
    □会場:「萌木の村オルゴール博物館 Hall of Halls」

オルゴール博物館 山梨県北杜市「萌木の村オルゴール博物館」HPより


2月16日、早朝、皆で東京を出発。
お昼には、萌木の村オルゴール博物館に到着しました。


お天気がちょっと心配でしたが、好天に恵まれました。


10% IMG_20180216_113943 (1) 
さて、到着してスグ、
博物館の前で、猫に遭遇!
10% neko ③ 
この「萌木の村」で飼われている
猫なのでしょうか? 

人に慣れた感じでしたが、
皆に囲まれて驚いたのか、
その後、逃走…。
(スミマセン)
10% neko ② 
午後は、このオルゴール博物館での空間の使い方を探すために、様々な可能性を試しながら、丁寧に丁寧に、場面ごとのリハーサルを進めていきました。

残念ながら、この日は全場面を通すことはできませんでした。リハ後、全員でホテルに宿泊です。



2月17日
午前中に最後のリハを済ませ、お客様を迎えます。


1519306144048.jpg 1519306154619.jpg 

14時半~、本番が始まりました。
50% 2018アンティゴネ in オルゴール博物館 2-4 

終演後に主催者の方々より、「最高の芸術を間近で観ることができ感動した」との言葉を頂きました。

片づけを終わらせた後、博物館スタッフの方もまじえて、
皆で記念写真を撮影しました。
皆さん、本当にお疲れさまでした! 

スタッフ交えての集合写真 

今後も引き続き、こういった機会での特別な公演活動も続けてまいります。どうぞ、お楽しみに!



さて、3月には、この『アンティゴネー』が下北沢で上演されます。
2018年 3月22日(木) ~ 24日(土)
ギリシャ悲劇
 ソポクレス作『アンティゴネー』

今回は、3公演のみになります。
下北沢の劇場は、限定25席の空間です。ご予約はお早めにどうぞ。
公演の詳細とお申し込みはコチラ!
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なかなか上演されない「観音巡り」(曾根崎心中)


近松門左衛門 特集 3  
~『曾根崎心中』 当時の大坂をのぞく(3)~

今回は、現代ではなかなか上演されない、『曾根崎心中』の冒頭、「観音巡り」についての紹介です。

「…近松門左衛門の原『曾根崎心中』は、「観音巡り」から始まります。
この「観音巡り」は、主人公お初が大坂三十三所の寺々を巡って歩いていく姿を描いたものです。近松の本領ともいうべき美しい詞章が連ねられており、またそこに描かれる、お初の若々しい姿は非常に印象的です。文学作品として読むなら、きわめて重要な部分です。ただ本筋に直接関係がないことと詞章の難解さから、初演以来、ほとんどこの部分が上演されることはありませんでした。」

50%size (pd) 「牟芸古雅志」(瀬川如月著)より人形浄瑠璃「曾根崎心中」上演の様子 

この「観音巡り」のシーンは、大阪に住んでいる方にとっては、ごく身近な、当たり前の描写なのでしょう。
ただ、大阪に住んでいない私たちにはなかなか、実際に訪れる機会はありません。
今回、紹介させていただいております『心中への招待』で、著者の小林恭二氏が、実際に三十三所巡りを敢行し、その体験をレポートしてます。

「これも何かの縁だと思って、ある冬の日、歩いて廻ってみることにしました。…(中略)…
食事時間をあわせてざっと7時間、距離にして20キロ近く歩いたでしょうか。ただ廃寺が多く、実際に廻ったのは24所でした。しかも手を合わせる時間は、平均で5秒くらい。お初はちゃんと手をあわせ、賽銭も投げたでしょうから、もっと時間がかかったでしょう。一日で廻るのはかなり難しいというのが実感でした。」


近松は、当時では珍しいリアリズムの作家でもあり、実際の事件をもとに作品を書く際には、相当に調べあげて書いていることが知られています。おそらくは、この界隈を何度も歩きながら、想を練ったのではないでしょうか。
大阪を訪れる際は、ぜひ訪ねてみたいと思います。

※私たちの『曾根崎心中』では、この「観音巡り」の部分を、
「サザエさん」磯野波平役の声で親しまれた、声優の 故  永井一郎氏に、
素晴らしいナレーションで語ってもらっています。これは本当に、何回聞いても感動する、素晴らしい語り口です!
ぜひ私たちの劇場に足を運んでご堪能ください。
30 永井一郎写真 

参考: 小林恭二 著 『心中への招待』 (文藝春秋)



2018年2月22日(木) ~ 25日(日) 『曾根崎心中』 
公演の詳細はこちら20% 「曾根崎」申込バナー(横・うす茶)  


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東京ノーヴイ・レパートリーシアター

東京ノーヴイ・レパートリーシアターのメンバーたちが、任意に稽古の模様や本番の様子などを、お伝えしてまいります!


私たちは、ロシア功労芸術家のレオニード・アニシモフを芸術監督に迎え、ギリシャ悲劇からチェーホフにいたる、古典作品から厳選したレパートリーを上演しています

平成27年3月27日、東京都より「認定NPO法人」として認定されました。


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